ジョニー「なんだい,ボブ.」
ボブ「自粛ってどう思う?」
ジョニー「余震と津波と原発はどうでもイイの?」
ボブ「ボクには余震を止める事は出来ないよ.津波被害も原発の件の対応も今の段階でシロウトが何か出来るかって言ったらちょっとムリだなぁ.モチロン,シロウトのボクらでもこの先どうすんのかとかは考える必要はあると思うよ.でも,自粛は今のうちにボクでもどうにか出来そうな気がするんだ!」
ジョニー「ナルホド,取り敢えずは出来るトコロからコツコツと,ってワケだ.」
ボブ「そうそう.」
ジョニー「で,キミはどう思っているんだい?」
ボブ「ちょっと待っておくれよ,ブラザー.ボクが先にキミの考えを訊いたんじゃないか?」
ジョニー「まぁまぁ.キミから『どう思う?』って訊いてきたからには,なんとなくキミ自身の意見みたいなモノはもうあるんじゃない?」
ボブ「その通りだけど,キミの意見を聴くとボクはアカラサマに影響を受けちゃうから,あんまり自分から先に言いたくないんだよ.」
ジョニー「誘導尋問しているつもりは無いんだけどなぁ.ま,何の話を始める前にもさ,ぼんやりとでも最初に持っていた意見はそれなりに大事にした方がイイよ.でも,その意見を変えない頑固さを持てって言ってるんじゃないから勘違いしないでね.」
ボブ「ハイハイ,分かってるって.他に注意点は?」
ジョニー「ボクがこれから話そうと思っているのは,便所の落書き以上で読書感想文以下の様なモノだろうからそう大したモノだと思わない事だね.」
ボブ「どゆこと?」
ジョニー「つまりさ,こう言う社会現象を"○○的なるモノ"と解釈した場合にいつも憑いてまわる胡散臭さの事さ.」
ボブ「イマイチヨクワカランよ?」
ジョニー「そろそろエラい人に登場してもらった方が良さそうだね.ルース・ベネディクトって言う文化人類学者は知ってる?」
ボブ「菊と……『菊とポケモン』!」
ジョニー「それは違う人のだね.」
ボブ「おっと,いけねぇ.間違えちった.」
ジョニー「彼女は『菊と刀』でこう言っているよ.」
本書の叙述を裏付ける申し分のない権威がいるとすれば,それは,いわゆる市井の人である.つまり普通の人である.だからといって,「普通の人であれば,特定の状況を一つひとつ実際に体験したことがあるだろう」と言いたいわけではない.そうではなくて,「普通の人が特定の状況を見れば,事の次第はかくかくしかじかだと認めるだろう」と言いうことなのである.本書のような研究は,思考や言動の,根の深い習慣を描き出す事を目標とする.かりにそこまで至らないとしても,やはりそれが理想である.ボブ「これって取材力不足な"なんちゃってジャーナリスト"の言い訳に聞こえるよ?」
このような研究の場合,必要な情報はすぐに飽和状態に達する.そのような点に達すると,情報提供者の数を大幅に増やして追加の証言を得ても,証言全体の信憑性は高まらない.たとえば,だれがいつ,だれに向かってお辞儀をするのかという問題は,日本全体を対象とする統計を必要としない.お辞儀をすることが公式,非公式に必要とされる場面は,だれからでも聞き出せる.そして幾つかの裏付けが取れれば,そのあとわざわざ百万人の日本人から同じ情報を得る必要はない.
ジョニー「そうだね.でも,この手の類いは現実的にはそういうモノなのさ.諦めてくれたまへ.」
ボブ「あぁ,つまり,その点を差し引いて受け止めろって事ね.」
ジョニー「そうそう.」
ボブ「オーケー,眉唾の準備は万端さ!」
ジョニー「じゃ,"普通の人"をぐぐる様のリアルタイム検索で見てみなよ,キーワード『自粛』で.」
ボブ「おろ,『自粛は良くない』ってツイートがスゲーあるじゃん!」
ジョニー「次はニュースを検索!」
ボブ「あれ,『街は自粛ムード』ってヤツばっかじゃん!」
ジョニー「どうよ?」
ボブ「いや,『どうよ?』とか言われても……これだからマスコミは云々?」
ジョニー「んにゃ,ちゃうねん.」
ボブ「よく分からないな.『自粛は良くない』って思ってるのに『街は自粛ムード』なの?」
ジョニー「どちらも信用するとそんなカンジだね.」
ボブ「でもそれは変だよ.」
ジョニー「どうして?」
ボブ「良くないって頭で分かってるのにその良くない事をやってるの?ワケが分からないよ……」
ジョニー「カール・ポパーは『推測と反駁』の『社会科学における予測と予言』でこう言っているよ.」
陰謀によってなしとげられた結果が,めざされた結果と通常はなはだ異なるのはなぜか.陰謀があってもなくても,これは社会生活において普通に起こることだからである.そしてこの指摘によって,理論社会科学の主要課題を定式化する機会が与えられる.すなわち理論社会科学の主要課題は,意図した人間的諸行為の意図せぬ社会的反響効果を明らかにすることである.単純な例を挙げよう.ある人がある地域で一軒の家を緊急に買おうとする場合,かれがその地域の家屋の市場価値を釣り上げようと望んでいないことは,確実に仮定できる.しかしかれが買い手として市場に現れるという事実は,市場価値を上昇させる結果に導く.売り手についても同様な事がいえる.あるいは非常に異なった分野から一例をとれば,ある人が生命保険をかけようと決心する場合,かれは他の人にかれらの金を保険会社に投資する気を起こさせる意図などおよそ持っていないであろう.だがそれにもかかわらず,かれはそうすることになるであろう.ボブ「経済っぽい例だけじゃん.」
このことからもはっきりわかるように,われわれの行為のすべての結果が意図された結果なのではない.
ジョニー「自粛ムードで逼迫しているとされている問題は経済の話でしょ?」
ボブ「おおぅ……とすると,理論社会科学な方々に頑張って頂かないといけませんなぁ.あぁ,ついでにデマの問題もお願いしたいなぁ.」
ジョニー「ちょとタイム.ポパーせんせーのヨミが正しいとしてもだよ,コレは理論社会科学な方々が頑張ってもらうだけで問題が解決出来る様な話じゃないでしょ?」
ボブ「え?」
ジョニー「つまりさ,『自粛は良くない』って思ってるのに『街は自粛ムード』になる何らかのプロセスが存在して,仮にその詳細が明らかになったとしても,対策を考えて啓蒙もしてくれるかもしれないけど学者様の領分はその辺までさ.デマに関しても同様だね.と言うか,噂や都市伝説のフィールドワークなら『オルレアンのうわさ』とか既にあるし,ネット上の怪文書で良ければ『現代伝説考』とか結構面白いよ.」
ボブ「ヘイヘイヘイ,ちょい待ち,ちょい待ち.それじゃ問題が解決しないじゃん!」
ジョニー「自粛にしてもデマにしても当事者はボクたちだからね.もっと否定的に見れば,このヨミが当たってる保証はドコにもないよ.実際,リアルタイム検索の結果の一部には『まぁ自粛も仕方が無い』って意見もあるし,ニュース検索の結果の一部には『少しずつ自粛解禁のムード』みたいな話もあるしね.」
ボブ「いや,まぁ,そうなんだけど……う〜ん.」
ジョニー「何を唸っているんだい?」
ボブ「いやぁ,直接的に貢献出来るかと思ってた『街は自粛ムード』への対策もやれず仕舞いなのかなぁ,ってさ."普通の人"の『自粛は良くない』系のツイートにそれなりの支持が集まっているのは知ってるかい?」
ジョニー「それなりの支持が集まっている"普通の人"の『自粛は良くない』系のツイートってどれさ?」
ボブ「5000RTを超えたコレとか.」
あなたが全財産の入った財布を落としたとします。あなたは「お金がなくて困った」と嘆いてました。すると通りすがりのオッサンが「あの人はお金がないのか。では私は遠慮をしよう」と、毎日2本飲んでいたビールを1本に減らしました。さて、あなたは何か得をしましたか? 自粛も同じことです。ボブ「この例え話なら,ボクは自粛するのがウマい判断だとは思えないんだ.」
ジョニー「うん,そう思うかもね.でも,このツイートにはオッサンが自粛する意図が何も説明されていないから,どうして『街は自粛ムード』になるのかは説明出来ないね.」
ボブ「でも,このオッサンの判断はナンセンスじゃない?だから風刺になってるんでしょ?」
ジョニー「いや,だからさ.どうしてこのオッサンがナンセンスだとキミが思う様な判断をして自粛するのかが疑問なんであって,風刺したってオッサンが自粛する原因は説明出来ないよ.一部の人にはこの表現がお気に召して痛快に感じるのかもしれんケド.」
ボブ「オーケー,ジョニー.じゃあ,このオッサンはなんでビールを一本にしたんだろ?」
ジョニー「ねぇ,ボブ.どちらかと言うとボクは合理的に判断する方だと思うんだが,キミはどうだい?」
ボブ「なんだい薮から棒に,って,まぁ,いつもの誘導尋問だね……いいだろう,乗ってあげるよ.ボクもそれなりにイロイロ考慮した上でボクの基準で合理的に判断しているつもりだよ.」
ジョニー「だよね.でも,ボクたちってそんなに人生の勝ち組ってワケでもないよね,結構合理的に判断して生きてるつもりなのに.」
ボブ「まぁ,技術オタクはそういうモノさ.」
ジョニー「なんで今更達観してんのさ.」
ボブ「いいじゃん,ボクたち技術オタクが非リア充なのは横に置いておこうよ.」
ジョニー「なんかその表現は気に入らないケド,まぁイイか.つまりさ,ボクたちが各々の基準で判断していても思ったより望ましい結果にならないだけなんじゃないかと.」
ボブ「それって,さっきポパーせんせーの言ってた事と同じじゃん.世の中ってのはウマい判断をして行動したと思ってもそうは問屋が卸しませんよ,って.」
ジョニー「ボクが示唆したい事は寧ろ逆でさ.結局望ましい結果になっていないなら,実の所,ボクたちは思ったよりそんなに高尚で合理的な基準で間違いなく望ましい結果を目指して判断して行動しているワケではないんじゃないかってコトなんだよ.」
ボブ「ちょっと待ってよ,ソイツはアベコベだよ.」
ジョニー「別にボクはpost hoc ergo propter hocって言いたいワケじゃなよ,誤解しないでくれたまへ.百歩譲って,仮にキミの反論が正しいとしても『推論過程が論理的に誤っているから現実にそんな推論をするヒトはいない』なんてそれこそトンデモだよ.」
ボブ「んな無茶苦茶な……じゃあ,もっとウマい判断をして間違い無く行動しろって事?」
ジョニー「キミがそうしたいならボクは別に止めはしないケド……新渡戸稲造って知ってる?」
ボブ「5000円札の人!!1」
ジョニー「現行の5000円札は樋口一葉だけどね.彼は『武士道』って本を英語で書いたので海の向こうでは今も昔も結構有名らしいよ.」
ボブ「へぇ,サムライだったんだね!!1」
ジョニー「彼は武士道を構成する徳の一つとして礼について,こんな風に書いている.」
礼は,私たちが泣く者とともに泣き,喜ぶ者とともに喜ぶことを要求する.このような教訓的な要請が,日常生活の些細な点にまで至る時には,ほとんど人の注意を引かない,ささやかな行為の中に現れる.あるいはもし仮に注意を引くとしても,在日二十年の宣教師夫人が以前私に語ったように,「おそろしくおかしい」行為に見えるのである.ボブ「二人で泣けば悲しみは半分,二人で喜べば喜びは二倍って事?そんな理由で自粛してるって言うのかい?」
あなたは照りつける暑い日射しのもと,日傘もささずに戸外にいる.日本人の知り合いが通りかかる.あなたは彼に挨拶をする.すると彼はすぐに帽子をとる.——よろしい,これはきわめて自然のことである.しかし,彼が,あなたと話している間じゅう,自分の日傘を下ろして,照りつける太陽のもとに立っているというのは,「おそろしくおかしい」行動である.
何と馬鹿げたことだろう!そう,その通りかもしれない.しかし,彼の動機は次のことにあるのだ.——「あなたは炎天下にいます.私はあなたに同情します.もし私の日傘が十分に大きければ,あるいは私たちが親密な知り合いならば,私は喜んであなたを私の日傘の下にいれてあげたい.しかし,私はあなたを陰に入れることができないから,せめてあなたの苦痛を分かち合いたいと思います.」
これと同じくらい,あるいはもっとおもしろいこの種の行動は,単なる身振りや習慣だけのものではない.こうした行為は他人の快不快に向けられた思いやり深い感情の表現なのである.
ジョニー「まぁまぁ,ちょっと長いケドもう少し続きを聴いておくれよ.」
もう一つの「おそろしくおかしい」習慣は,わが国の礼の規範によって定められている.しかし,日本について浅薄な文章を書く人の多くは,これを日本人に一般的な,本末転倒の習慣にすぎないと簡単に片付けている.この習慣に接した外国人は,その機会に適当な返答をするのに当惑を感じたことを告白するだろう.ボブ「だから営業のヒトは"粗品"って書かれた紙で包まれた手ぬぐいやらタオルをくれるんだね!」
アメリカにおいては,贈り物をする時,贈る側は受け取る側にその品物を褒めそやす.しかし,日本ではこれを軽んじたり,悪く言ったりする.
アメリカ人の底意はこうである.
「これはすばらしい品物です.もしそうでなければ,私はそれをあなたにあげたりはしないでしょう.およそ良い品物以外の物をあなたにあげることは,無礼でしょうから.」
これとは対照的に,日本人の気持ちは次のようなものである.
「あなたはいい人です.どんな品物もあなたに十分ふさわしくありません.何をあなたの足下に置いても,あなたは私の好意のしるしとして以外は受け取ってもらえないでしょう.この品物を,物そのものの価値ではなく,しるしとして受け取ってください.最高の贈り物であっても,それをあなたにふさわしいほどすばらしいと言うことは,あなたの価値に対して侮辱となるでしょう.」
この二つの考え方を並べてみれば,究極のところではまったく同じ考えであることがわかる.どちらも,「おそろしくおかしい」ことではない.アメリカ人は贈り物の素材について言っており,日本人は贈り物をするに至った気持ちのことを言っているのである.
私たち日本人の礼儀感覚が,その振る舞いのあらゆる枝葉末節にまで現れるからといって,その中のもっともつまらないものを取り上げ,それを典型とみなし,それによって原理そのものを批判するのは,誤った結論の導き方である.
ジョニー「まぁ,本音か建前のどちらで考えているかは別の話だし,営業のヒトが持ってくる手ぬぐいやらタオルやらはホントに粗品だからありのままと言えばありのままなんだけど.」
ボブ「つまり,キミは自粛肯定派なワケ?」
ジョニー「そう言うキミは自粛否定派の様だね.でも,ボクは大して自粛なんかしてないよ.寧ろ不謹慎な方さ,余震の緊急地震速報にジョジョ立ちで待機したり,肩パッドと火炎放射器を揃えようとしたけれど無免許でバギーを運転出来ないコトに気付いたりする程度にはね.でも,この件に関してはさっきの5000RTされた反自粛ツイートよりも新渡戸稲造の文章に軍配を上げたいね,個人的には.」
ボブ「今を生きる市井の人達5000人の意見よりも5000円紙幣で名前が知られている特権階級の権威を盾にするんだね!!1」
ジョニー「まぁまぁ,落ち着けよ.」
ボブ「で,原因がハッキリしないまま対策も打てず仕舞いなんだけど?」
ジョニー「だから最初に言ったじゃないか,眉唾だって.」
ボブ「いやこんだけネタを広げておいて何も成果が無いってのは骨折り損の草臥れ儲けじゃないか.」
ジョニー「ホントにそうかい?キミの今持っている意見は最初と何も変わってないのかい?」
ボブ「それはあとで胸に手を当てて考えてみるコトにするよ.」
ジョニー「ねぇ,ボブ.キミは地震があってからどんなコトをしたの?」
ボブ「そうだな……使ってない時間はブツのコンセントを抜くとか厚着して暖房を我慢したりとか?」
ジョニー「Gentooユーザーはemergeを押さえ気味に且つピークシフトを心がけるコトって言う御触れが出たね.」
ボブ「それから大した額じゃないけど募金もしたよ.」
ジョニー「もともとヒキコモリの技術オタクってさ,あんまコンスタントに消費はしないヤツも居たりするから,そう言うヤツは結構溜め込んでるよね.たま~に一般人には理解不能なブツにいきなりおかしな額の投資をしたり.逆に,常にガジェットやらなにやらに過剰投資気味で金欠でヒーヒー言ってるヤツも居るけどさ.」
ボブ「ソイツは言わないお約束だろう,ブラザー.あぁ,そう言えば,食品の産地を確認して買う様にしたよ,被災地産の米を買ったりね.」
ジョニー「まぁ,計画停電はもともと必要なかったとか,被災地支援の消費活動を明言しつつも実際には実行しないなんてカンジのブラッドリー効果的なモノも現れそうだけどね.」
ボブ「どうやら今日のキミは話を丸く収めようって気は無いみたいだね.」
ジョニー「じゃあ,オチはキミに任せようか!」
ボブ「Pray for Japan!!1」